未来構想デザイングレート・ブックス02

2020.4.10

2回目は、平松先生からの紹介です。

生田武志『いのちへの礼儀』 筑摩書房、2019年

ウィルスがいなければ人や多種多様な生命は進化しなかったかもしれないのだが、見えないウィルスに人々は恐れをなしている。そもそも自分の遺伝情報の一部はウィルス由来であるし、肉体や生命活動の維持は他の生命を食して繋いでいる。本書によると、今から見ても過激な動物愛護政策を試みた徳川綱吉の生類憐れみの令や、ピーター・シンガーを祖とする現代の動物解放運動は、人と動物を分けることによって生命倫理のジレンマに立ち向かおうとした。本書の著者は、善きサマリア人のごとく隣人として共生を試みる人と動物の関係から、生命的存在の難問を超える可能性を探る。ウィルスとの共生を人々が受け入れる日は来るだろうか。

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オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』 大森望訳、ハヤカワepi文庫、2017年

幸福とは何か?科学や芸術は万人の幸福のためには制限されるべきか?価値観が覆り、人々はアルファ、ベータ…階級へと条件づけられ、皆で快楽を共有することが推奨される世界。ほとんどの人々はそのユートピア的世界を疑わないが、真実を見出し追放される人は不幸せではないのかもしれない。一方で、過去の価値観から逃れられない人は不幸になる権利を要求する。ディストピアSFの古典と評される約1世紀前に書かれた小説の新訳版は、新たな新世界に向かっている今世紀の人々にも疑問を投げかける。小説世界の人々の幸福と苦悩に共感することは、斬新な未来か、はたまた火祭りの踊りを衰退させない未来へと繋がるのだろうか。本書直系のSFとされる、2019年、未知のウィルス蔓延による大災禍後の世界を描く伊藤計劃による『ハーモニー』も併せて読みたい。

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八木啓代『危険な歌―世紀末の音楽家たちの肖像』 幻冬舎文庫、1998年

海外旅行もライブハウスに行くことも禁じられた世界で、地球の反対側で歌われていた歌の威力を東洋の端まで届けてくれる本。大声で歌うことはできなくても、心の中で音楽を奏でる創造性を人は持っている。「時代は心を生み出してゆく、そしてその苦痛に堪えかねて死んでゆく、だから走って行かなければ、未来がどこかに落ちてしまう」キューバの「音楽の革命」を牽引した、シルビオ・ロドリゲスの旋律が頭の中で共鳴する。

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